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松本響音 連載 『きらきらきら』

女流書道家 松本響音 連載 
『きらきらきら』
人が、すべての命が、世界が、
美しく光り輝くように―――


松本響音 連載 『きらきらきら』
ことば

『ことば』

「空海さま、あなたは、この世で一番大きなものは、何であるとお考えでございますか?」
「言葉でしょうね」
「それは何故ですか」
「どのような大きさのものも、言葉でそれを名づけることによって、名という器の中におさめることができるからです」
「言葉で名づけられぬほど大きなものがあるのではありませんか」
「では、それがあるとして、それが何であるかを、あなたはわたしに説明できますか」
「できません。何故なら、私が、あなたにそれを言葉で説明した途端に、それは言葉より小さいものになってしまうからです」
「ですから、わたしは、今、それは言葉だと言ったのです」

「では、空海さま。あなたは、この世で一番小さなものは、何であるとお考えでございますか?」
「それも言葉でしょうね」
「それは何故ですか」
「どのような小さいものも、言葉でそれを名づけることによって、それを人に言葉で示すことができるからです」
「言葉で名づけても、その言葉の網の間からすり抜けてしまうほど小さなものがあるとは思いませんか」
「では、それがあるとして、それが何であるかを、あなたはわたしに説明できますか」
「できません。何故なら、私が、あなたにそれを言葉の網ですくいあげて見せた途端に、それは、言葉よりも大きくなってしまうからです」
「ですから、わたしは、今、それは言葉だと言ったのです」

 

夢枕獏「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」より